シークレット・シュガー
あり得ない偶然
12月最初の金曜日の夜。あたしは笑顔を張り付かせていた。

あああ~……。やっぱり来るんじゃなかった。
なんで会社の外でまで、気を遣わなきゃいけないんだ。
ピーチとオレンジの甘いカクテルとはいえ、苦手なお酒をちびちびと舐めるように飲みながら、あたしは思った。

でも、「先輩のために合コンをセッティングしました!」なんて笑顔で後輩の栞(シオリ)に言われたら……さすがに来ないわけにもいかないよね。

そう、ただ今、3対3の合コンの真っ最中なのだ。

それだけならいい。どうしてこうなっちゃったんだろう……。
薄暗い照明の落ち着いた雰囲気の居酒屋で、あたしは男性に挟まれるようにして座っていた。
個室だからか、すごく狭く感じる。右隣の男が異様に近いからか?
肩が当たるほどそばに座っていた。

たしか原因はこの男。席替えしようと言いだして、気付いたらこの並びだった。
左隣の男は向かいに座る女子に興味あるみたいで、それがせめてもの救いだ。

「それで、愛香さんは休日は何をして過ごしてますか?」
右隣の男はさりげなくあたしの肩に腕を回し、訊いてきた。
その瞬間、ぶわっと鳥肌が立つ。あたしは背を浮かして、男の腕から逃げるようにした。

もうっ。だから、合コンって嫌いなのよ。
慣れ慣れしく触られることも、出会ったばかりなのに下の名前で呼ばれることも苦手だ。

「特には……買い物行ったりとか。あの、ちょっとトイレに……」
あたしは男に愛想笑いを向けると、向かいに座る栞をジロッと睨むようにして席を立った。

あたしのためって言いながら、自分のためだったんじゃないかしら。
今日の相手は一流企業の男たち。
それだけ聞くと条件はいいんだけど……あたしには若すぎた。
入社一年目、23歳の男たちだ。

25歳の栞にはちょうどいい年下男だけど……28歳のあたしにはねぇ。
社会に出てても、子供にしか見えない。
しかも、あんな若い男に、28歳で処女なんて言ったら笑われるに決まってる。

あたしはトイレの便器に座って、ため息をついた。

そう、あたし倉本愛香(クラモト アイカ)。
28歳、彼氏なし、処女。
まさに崖っぷちの女だ。


< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop