色をなくした世界
通夜も葬式もあっけない程簡単に終わった。


雪乃はまるで映画を見るように、その時を過ごした。


途中トラックの運転手が泣きながら謝りに来ていたが・・・和哉の両親に追い返されていた。


助けた子どもは親に連れられ謝罪と礼に来ていた。「助けてもらった命大切にします」そう言っていたが・・・できる事ならその命を和哉に返してほしかった。


和哉の両親からは「まだ雪ちゃんは若いし、和哉の事は忘れて幸せな人生を歩んでほしい・・・」と言われた。


和哉と雪乃は学生結婚だった為お互いまだ23歳だった。若すぎる和哉の死・・・。


和哉の両親の申し出は有難かったが・・・和哉の事を忘れる事などできそうにもない。


和哉と過ごした家に3日ぶりに帰ってみれば・・・あの日のままだった。


お皿を洗う前だった為、和哉の飲んだコップは机におきっぱなし、洗濯も回したままだ・・・。


あの日のままなのに・・・君がいない。


ソファーに倒れこめば、和哉の使っている香水の匂いがする。まるでそこに和哉がいて、抱きしめられているような錯覚に陥る。

その感覚から雪乃はソファーから起き上がれなかった。




どれだけそうしていただろう・・・玄関のチャイムが鳴る音で雪乃はソファーから起き上がった。



時計を見れば、あれから一時間がたっている。

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