色をなくした世界
タクシーを家の横に着けてもらい降りれば・・・一馬も当たり前だが降りてくる。


「家着いたし大丈夫だよ。帰りなよ」


無理やりタクシーに押し込めようとする雪乃を一馬は押しのけ降りてくる。


「そんなフラフラでどうするんだよ。部屋まで送るから掴まれ」


雪乃には一馬に部屋に来てほしくない理由があった・・・。


言い合っている二人をとりあえず降ろすとタクシーの運転手は関わりあいたくないと言わんばかりに急発進で走って行った。


「分かった。でも・・・・多分良い気分しないと思うから」



雪乃はそっけなく告げる。


その意味を一馬はすぐ知ることになるのだが・・・・この時の一馬は知らなかった。


そして雪乃が一馬に支えられながら歩く姿は、まるで恋人同士のように見える。





二人は知らなかった。



忘れ物を郵便受けにでもと届けに来た雄大がそこにいた事を。



二人は知らなかった。



まるでしなだれかかる様に一馬に捕まり歩く雪乃を、雄大が見つめていたことを。



穏やかだった時間・・・終わりはすぐそこまで来ていた。
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