彼は、理想の tall man~first season~
私はなにか言われるのかと、少し構えた。
「なあ」
「うん?」
何か言いたさそうだったけど、少ししてから、「やっぱいい」と、尚輝は私から視線を外し口を閉ざした。
「ちょっと、変に引っ掛かるでしょ? 言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってよ」
抗議めいたことを言ってみたものの、「なんでもない」なんて軽くスルー。
「ね、尚輝?」
「――ん?」
再び聞こうとしたけれど、俺も風呂入るとか言い出し、スタスタとリビングを出て行ってしまった。
「なんなの? 調子が狂うじゃん」
ひとりでそんなことを呟いて、なんだか尚輝が変だと思いながら、私は自分の部屋に入った。
* * *
「麻倉さんごめん。この書類、円山商事の小林部長に届けてもらえないかな」
「――はい?」
それは金曜日の2時半を過ぎてのことだった。
円山商事の小林部長って言ったら、午前中にこの村岡部長宛に来社されて面会をしていた人。
「小林部長が忘れた書類だから向こうの落ち度なんだけど。気付かなかったこっちにも責任があるから」
「はい、かしこまりました」
渡された書類は、A4サイズの茶封筒。