彼は、理想の tall man~first season~
「今日は、そのまま直帰してくれて構わないから」
「直帰で宜しいんですか?」
「んー戻って来たら定時越えちゃうだろうし」
「そうですけど――本当にいいんですか?」
「今お願いしてる資料、あと1時間もあれば終わる?」
「はい。1時間もあれば終わるかと」
なら、それが終わったら出発してもらおうかな――と。
村岡部長は凛々しい表情を、少し緩ませた。
「小林部長も、そそっかしいよね。それさ、大事な契約書だからね」
「え、そうなんですか!?」
そういう所があの部長らしいけど、なんて笑う村岡部長は、奥さんがいるけれど、理想に近い素敵な男性と思った人物だ。
「バイク便とか、メール運送便とか、信用してない訳ではないんだけど。やっぱりこういうのは、直接渡しておく方が安心だから」
「そうですよね」
「急で申し訳ないけど」
「いえ、しっかり務めさせて頂きます」
私は村岡部長の唯の小間使い。
けど、部長は明白な理由を此方にキッチリと伝えてくれた。
だから、傍から見れば唯のパシリでも、こういうことを不満に思うことはない。