彼は、理想の tall man~first season~
「向こうの大事な忘れ物を、こちらからわざわざ出向いて届ける。ある程度、恩を売っておくのも、今後の付き合いには優位に働くだろ」
「じゃあ、今取り引きのある製品、もう少し数量増やしてもらえないか、ダメもとで聞いてみようかな」
「ああ、いいじゃない。俺から言うよりは、麻倉さんの方からのが、勝算ありそうだ」
「いえいえ、冗談ですよ」
冗談のつもりで言ったのに、村岡部長は軽く首を振って、凛々しい表情に戻っていた。
「麻倉さん、実はね」
「はい?」
「下期から、麻倉さんに営業の内勤をしてもらおうかと思っているんだ」
まだ内々の話なんだけど――。
そう言った村岡部長は俺の中じゃもう決まりなんだけど、と。
信じられない事を私に告げた。
「今俺に付いてもらっているのは、そういう構図を描いてるからなんだよね」
来客の時にお茶でもなんでも、麻倉さんに顔を出してもらってるのは、少しでも顔を売っておきたいのと、麻倉さんにも見知ってて欲しかったから――と。
村岡部長の口からは、やはり信じられない言葉達が飛び出て来る。
まあ、お茶出しは先方の顔を覚えることを前提でこなしていたけど。