彼は、理想の tall man~first season~
恋心――それが覚醒しないように、ドアが閉まると同時に、私は心の奥底にその感情を押し込んで蓋をした。
中條氏とはなにもなかったし、まだなにも始まっていない。
全然引き返せる位置に、私の心はあったはず。
なのに、こんなにもがっかりしているのはなんでなんだろう?
中條氏は、ただの知り合いってだけになる。
私と中條氏の仲は、ただそれだけ。
知り合った後と今現在とで、なんら変わりのない関係なのに。
「晃と知り合いだったんだね」
「そう、みたい、ですね」
部屋に戻って来た中條氏。
凄く気まずさを感じるのは、晃とごく普通の友達とは言い切れない部分があったのと。
昨夜、尚輝が良かれと思って吐いた嘘がバレてしまったから。
やっぱり、日頃の行いに歪んだ行動があると、それは正されるべき道へと導かれるものなのだと――人生の教訓にしようと、私は密かに思った。
「隆(たかし)君と中條さんのお姉さんが結婚をしたってことなんですね」
「晃の兄貴も知ってるの?」
「はい。中学の時とか、晃の家にたまに遊びに行ってた事もあったので」
「そうだったんだ」
「――はい」