彼は、理想の tall man~first season~
それを知らなかった頃の――その感情に気付く前の私に――時計の針が戻せたなら、どんなに楽だろう。
芽生えかけていた恋心ってやつに――その気持ちに、完全に蓋が出来たなら――どんなに楽だろうって、そう思った。
久し振りに聴いたショパンは、私の心をかき乱して、諦めの悪い醜い私の心を曝け出すには、充分だった――。
放置していたら冷める、このお風呂のお湯みたく、気持ちも簡単に冷めてくれたなら、どんなに楽か――。
普段だったら認めないのに、こうなると認めてしまえる恋心。
相変わらず素直じゃない自分に呆れ。
簡単に気持ちを断ち切れるかと思ったけれど、そうでもない未練がましい自分がいたことに驚きつつ。
ただ――まだ、なにかが始まる前で良かったと、そう思う自分がいたのも確かで。
気持ちがなかなか定まらない自分に、嫌気がさしていた。
「あ、お帰り。帰ってたんだ」
「美紗、聞いた。晃から電話入った」
「そ、そうなんだ」
「まさか、晃が敦さんの親戚だったとはな」
「うん――私、」
「ん?」
「多分、中條さんとどうにかなるとかって、ないと思うから」
「――は? なんで?」