彼は、理想の tall man~first season~

それでも何か会話を――なんて少し焦っていた私は、落ち着き払っていた中條氏に比べて、ひどく滑稽に思えた。


だけどその時、ある重要なことに、私は気付いた。

好きとかそういう言葉をお互い口にしていない。

私は好きって自覚症状はあるけれど――中條氏は、一体どういうつもりで?

いや、でも、この期に及んで、雰囲気でなんてこともないだろうし。

でも、昨日もハッキリとした言葉は言われなかった。

中條氏の私に対する接し方は、好意的ではあるとは思うけど。

実際の所、言われてないから確証なんてないし。


大人同士の恋愛には、そういうのは必要ないのかな?

言って欲しい言葉なら、自分からもちゃんと伝えるべき事なんだろうけど。

なんだかんだで、自らの意思でキチンと告白なんてした経験がないから厄介だ。


『好きだよ』なんて、まだ子どもだったからあんなに軽々しく言えたこと?

当時は言われても、中身が伴っていなければ意味がないと知った言葉を、今欲しいなんて思った所で。

今度はそれを本当に信じてもいいのかってことになる。
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