彼は、理想の tall man~first season~
chapter.18
『んだー?』
「もしもし、マスター?」
『おう、久しぶりだなぁ。出戻る気になったか?』
「もう、なに言ってるの。それより、起きてた?」
『あー、起きてたよ。もうすぐおやつの時間だしな』
「なにそれ」
久々に電話で話したマスターの声は、起き抜けちょっと後という感じだった。
『で、どうしたよ?』
「うん、あのね、実はお願いがあって」
『あんだぁ? 金ならかさねぇぞ』
「もう、お金の話じゃなくて、ピアノをちょっと練習させてもらえないかなと思って」
『練習? お前、練習なんていいから、夜、店に弾き来いよ』
「練習の場を提供してくれたら考える」
『あん? お前の方が立場が上ってか?』
「マスターが今生きてるのは間違いなく私のお陰じゃない?」
『アッハハ、確かにな』
電話越しからジッポを開けた音が聞こえて、マスターが煙草に火を点けたのが分かった。
「で、本題なんだけど」
『ん?』
「7月中頃まで、土日のどっちかで、週一でお願いしたいんですけど」
『店始まる前なら、好きなだけ弾いてていいぞ』
「本当に? 流石マスター、話が分かる」