彼は、理想の tall man~first season~
「だって奏が、そのピアノの先生には、全然相手にしてもらえなかったって言ってたんだぞ」
「え? なに、なんか・・・・・・物凄く悪者にされてる、みたいな気になる」
「実際、幼気な高校生をたぶらかしたんだ。そうなんじゃねぇの?」
「うわ、和君ひどーい! 全然たぶらかすとか、そんなことなかったのに」
そんな会話をしていると――。
「あんだよ、楽しそうじゃねぇか」
マスターが背後から腕を私の首に絡ませ、カラんできた。
「ちょ、ちょっと!! 急にビックリするでしょ」
「せっかく人が弾いてやったのに、聴かねぇお前が悪い」
「えー聴いてたし! やっぱりマスターの音色は繊細だって心の中で思いっ切り思ってたし、和君とも話してたけど」
「おめぇの言うことは、嘘くせぇんだよ」
「本当だって。ねぇ? 和君」
「あれ? そんなこと言ってたっけ?」
「うわ、ここアウェー? 私、もう帰ろうかな」
「ハハッ、冗談だろー」
和君が笑いながら、お代わりを注いでくれて――だけど、マスターが私のグラスに注がれたそれを、勝手に飲み干してしまった。