彼は、理想の tall man~first season~

「あんにゃろ、次に“水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ”なんて弾いたら、クビにしてやる」

マスターが奏君の演奏を聴きながら、またもや私のカクテルを飲んだ。


「私は、聴いてみたいな。リスト伝説」

「訳わかんねぇ曲ずっと弾かれてみろ。帰るぞ、お客は」

「まあ、そうだけど。でも、次は多分カンパネラとかメジャーな曲に行くと思うけど」

「だといいけどなぁ」

そんな会話をしている間にも、お客さんが数組みご来店。

マスターも和君も忙しなく働き始めた。

そして、ゆっくりカウンターに座っていられなくなった私は、一時的にスタッフルームに引っ込むことにした。


ここぞとばかりに煙草を吸い、置いてあった譜面を捲った。

奏君のピアノの音色が、ここにいても耳には届く。

丁度いい休憩場だと思いながら私は時間を潰した。

譜面を見ながらも気になるのは携帯電話。


メールは来てないだろうとは思いながらも――これは、もう癖になりつつある。

私はバッグの中から携帯を手に取った。


だけど、メールどころか着信さえない――。

覚悟して見たけれど、もしかしたらって気持ちが――私をがっかりさせた。
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