彼は、理想の tall man~first season~

「自分の事だけって人間は、人の心つかまえたと思っても、そりゃ一時的。後でそれを後悔しても、悔いても人は還らずよ」


悔いても人はかえらず――。

それを聞いて胸が痛くなった。


「まだ、忘れてない、よね?」

「あ? 一生忘れることはねぇな」

「――で、ですよね」


マスターは、多分、自分の経験から私を諭してくれている。

このマスターは、私には想像もつかない辛い経験をした過去があるから――。


バイト時代に、恋愛相談というか、恋愛出来ない相談もしたことはあったけど。

マスターの言葉は、経験が経験なだけに、私には響く――。


私は今になって、ごく当たり前のことを、マスターに聞きたくなった。


「ひとつ質問してもいい?」

「ん、なんだ?」

「例えば、見た目でその人のことを気に入ったとして。性格もまあまあ合ったとして付き合い始めたとするじゃない?」

「あー」

「それだけで、うまくいくと思う?」

「んなもん、知らねぇよ。うまくいくいかないは当人同士の、なんつぅーんだ? 努力次第なんじゃねぇのか」
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