彼は、理想の tall man~first season~
「おお、感謝の気持ちがあんなら、奏と交代して弾き散らかしてこい」
「えぇっ!? 奏君のあとに弾くの? ちょっとそれ弾け劣りしちゃうからいやなんですけど」
「なぁに言ってんだよ。お前ぇの腕は俺がホショーしてんだ、問題ねぇ」
「えーっ!! 大ありだし」
「ああ、奏はクラシックっきゃ弾かねぇから、美紗はそれ以外で好きな曲弾いていいかんな」
「あの、話聞いてた? だからね? 私には、ブランクがあって、」
ぶーぶー言っていた私を無視して、マスターは部屋を出て行ってしまった。
何を弾こうか考えながらカウンターに向かうと、和君から手招きをされ――。
近付くと1枚のメモ書きを渡された。
「さっきリクエストもらったから、この曲の後、奏とチェンジでよろしく」
和君にえーって目で訴えた。
けれど――。
「弾かないなら酒代払えって、マスターから伝言」
「っ、なにそれ!!」
「諦めて弾くしかないんじゃない?」
あの詐欺師は、こういう連携って本当に得意中の得意だ。
和君まで抱き込むなんて。