彼は、理想の tall man~first season~
ただ、そう言われてしまったらお金は惜しいから、弾かない訳にもいかない。
「こちら、弾かせて頂きます」
「よろしく~♪」
私は裏通路を使い、ホールからは死角となるピアノの後ろで、奏君が弾き終えるまで待機することにして。
そこの隅にある棚から、リクエスト曲の譜面を探して頭に打ち入れた。
だけどぶっつけ本番な状況は、嫌でも心拍数を上昇させる。
何回も弾いたことも聴いたこともある曲。
カラオケでも歌ったことのある曲だから大丈夫――。
それが無意味な事でも、自分に強くそう言い聞かせながら、音譜を目で追い続けた。
奏君が弾き終えると、ブルーのライトは徐々に絞られ、奏君は椅子から立ち上がり軽く会釈。
私の緊張感は一気に高まった。
奏君と交代して、念の為譜面を譜台に置き、着席。
軽く息を吐いて、目を閉じ、そして呼吸を整えてから目を開いた。
今度はピンクのライトが徐々に光を強め、ピアノも譜面もピンク色に染まり。
ちょっといやらしいその色に、ホールステージと私も染められた。