彼は、理想の tall man~first season~
「出来るよな?」
改めて強い眼差しと言葉を向けられ、私は再び頷いた。
「ちゃんと弾けたら、グリーンアラスカが飲みたい」
「ハッ? お前ぇは、酒のことしか頭にねぇのかよ」
呆れた顔して笑ったマスター。
だけど、ちゃんと弾けたらなって、そう言ってくれて――。
私達は場所を移動して、奏君が弾き終えるのをピアノの後ろで待機していた。
奏君と話せる時間があればいいけど。
今日はちょっとそれどころではない事態に見舞われてしまったからな――。
奏君の背中を見ながら、また今度来た時にしようと思って、握っていた楽譜にもう一度目を通した。
何にも囚われず、マスターと楽しんでピアノを弾くことが、今は最優先。
敦君も尚輝も女性2人も――このお店にとっては、お客様。
今、このお店にいる人は――皆お客様だ。
私の心理状態なんて、ピアノの前に座ったら、お客様には本当に関係ない。
さっきマスターから言われた事の意味を、自分自身でもう一度噛み砕き、私は少し驚いた表情をしていた奏君とチェンジした。
きっとマスターが、もう一脚を手にしていたから、驚いたんだろう。