彼は、理想の tall man~first season~
ピアノを照らす照明はライトダウン。
カウンターの酒棚の明かりだけになった。
その間に、椅子をセットしてスタンバイ。
阿吽の呼吸とでも言ったらいいのか、和君は絶妙なタイミングで照明を操作してくれて。
こちらの準備が整ったと同時にパッと紫色のライトがピアノを照らした。
その瞬間、『ピィ~ィ』なんて指笛が聴こえて来て。
鳴らしたのは、多分マサ君だなと思って、私の頬は思わず緩んだ。
連弾の時はこの色のライトと、このお店では決まっている。
昔からの常連さんなら、このことは周知の事実。
だから「おぉ~」って、どこからともなく聴こえてきたどよめきで、私は更に気持ちがどこか楽になった。
気分的には即興。
だけど、何より腕の確かなマスターがいる。
今日ここに来てくれたお客様の為にも――来て良かったと思ってもらえる、そんな演奏がしたい。
先ずは、手始めに昔よく連弾していた楽曲の演奏。
マスターから小声で弾き始めの合図があって、私は鍵盤を弾き始めた。
高音域の第一演奏者はマスターで、低音域の第二演奏者は私。
ペダルを踏みながら、息を合わせての久し振りの連弾。