彼は、理想の tall man~first season~
緊張が指から鍵盤に伝わりそうな、そんな感じではあったけれど。
でも、マスターにフォローしてもっているうちに、負けられない。
そんな気持ちが芽生え、なんとか弾き上げることが出来た。
そして、一曲を弾き終えると、拍手が起こり――私はその反応にホッとした。
これから智子とマサ君がリクエストしてくれた曲だ。
「美紗、次ちょっとスローで入れよ」
次曲を弾く前に耳元でマスターにそう囁かれ、黙って頷いた。
某人気バンドのミディアムナンバーのその曲は、大学時代――マサ君が度々カラオケで歌っていた歌で、智子も私も大好きな曲。
ここでも何度も弾いたことのあった曲で、私達にとっては――言ったら青春ソング。
数ある曲の中から、この曲をチョイスしてくれた2人。
その2人の想い出の詰まった曲でもあるから、しっかりと弾かないと。
「いいか?」
マスターの始まりの合図に、私は黙って頷いた。
やっぱりピアノを弾くのは楽しくて。
弾いている間は夢中になれるから、嫌なことからも解放。
マスターとの連弾は、久々ではあったけれど――昔と変わらず充実して楽しいひと時だった。