彼は、理想の tall man~first season~

緊張が指から鍵盤に伝わりそうな、そんな感じではあったけれど。

でも、マスターにフォローしてもっているうちに、負けられない。

そんな気持ちが芽生え、なんとか弾き上げることが出来た。


そして、一曲を弾き終えると、拍手が起こり――私はその反応にホッとした。


これから智子とマサ君がリクエストしてくれた曲だ。

「美紗、次ちょっとスローで入れよ」

次曲を弾く前に耳元でマスターにそう囁かれ、黙って頷いた。

某人気バンドのミディアムナンバーのその曲は、大学時代――マサ君が度々カラオケで歌っていた歌で、智子も私も大好きな曲。

ここでも何度も弾いたことのあった曲で、私達にとっては――言ったら青春ソング。

数ある曲の中から、この曲をチョイスしてくれた2人。

その2人の想い出の詰まった曲でもあるから、しっかりと弾かないと。


「いいか?」

マスターの始まりの合図に、私は黙って頷いた。


やっぱりピアノを弾くのは楽しくて。

弾いている間は夢中になれるから、嫌なことからも解放。

マスターとの連弾は、久々ではあったけれど――昔と変わらず充実して楽しいひと時だった。
< 439 / 807 >

この作品をシェア

pagetop