彼は、理想の tall man~first season~
「ああ、そうだ。尚輝、これ引っ越し祝い」
「なに、敦さん現金?」
「手ぶらってのもな。かと言って、余計な物を買って持って来ても邪魔になるだろ」
たいして入ってないけど、現金なら邪魔にもならないだろ?
と――、中條氏はそう言って、尚輝に封を渡していた。
ありがとうございます。
なんて、あっさり受け取った尚輝。
キッチンに立って、その光景を見て、ギョッとしていた私は、
「美紗、これ」
と、私にそれを寄越そうとする尚輝に、もっとギョッとした。
っていうか、会社の上司から、現金をもらうって、どうなの?
「あの、いいんですか?」
「なにが?」
「いえ、その――お祝いだなんて。なんだか気を遣わせてしまって申し訳ないです」
リビングに移動して、尚輝から渡された、そそくさとなんて仕舞えないその封を手に、もう一歩ソファーに近付いた私。
けれど、なんだか失敗した気になった。
見下ろした中條氏は、上から見ても、やっぱりお顔立ちよろしく。
向けられた目に、なんだか物凄く顔が熱くなっていくのを、ドキドキしながら感じていた。