彼は、理想の tall man~first season~

「ああ、そうだ。尚輝、これ引っ越し祝い」

「なに、敦さん現金?」

「手ぶらってのもな。かと言って、余計な物を買って持って来ても邪魔になるだろ」


たいして入ってないけど、現金なら邪魔にもならないだろ?

と――、中條氏はそう言って、尚輝に封を渡していた。


ありがとうございます。

なんて、あっさり受け取った尚輝。


キッチンに立って、その光景を見て、ギョッとしていた私は、

「美紗、これ」

と、私にそれを寄越そうとする尚輝に、もっとギョッとした。


っていうか、会社の上司から、現金をもらうって、どうなの?


「あの、いいんですか?」

「なにが?」

「いえ、その――お祝いだなんて。なんだか気を遣わせてしまって申し訳ないです」


リビングに移動して、尚輝から渡された、そそくさとなんて仕舞えないその封を手に、もう一歩ソファーに近付いた私。

けれど、なんだか失敗した気になった。


見下ろした中條氏は、上から見ても、やっぱりお顔立ちよろしく。

向けられた目に、なんだか物凄く顔が熱くなっていくのを、ドキドキしながら感じていた。
< 45 / 807 >

この作品をシェア

pagetop