彼は、理想の tall man~first season~

これからあの場所で、彼女もピアノを弾くとトモコちゃんは言っていたが――。

それは、俺には異次元で。

とても彼女が普通の女の子だという風には思えなかった。

洗練された世界の、一般家庭とは異空間な。

住んでいた世界が余程違ったのか。

ただ、親の職業を考えると、そういう世界観だったのかも知れない。


「マスターとは違った魅力のピアノマンだな」

美青年のピアノに聴き入っていたトモコちゃんは、カクテルグラスに口を付けた後、誰に放つわけでもなく、急にボソッとそう呟いた。


「中條さん、ここのマスターと話しましたか?」

「ううん、話してないけど」

「そうですか。じゃあ、見た目と弾いた時のギャップの激しさに驚きますよ」

「マスターって、顎に髭のある人?」

「そうです、そうです。美紗と並ぶと、美女と悪男って感じなんですけど。2人の演奏があたしは超好きなんですよねぇ。弾きながらケンカしても、曲中で仲直りみたいなコンビなんで」


弾きながらケンカしても、曲中で仲直りみたいなコンビ?

一体どんなコンビだ――と、そう思っていると、ステージの彼は演奏を終えたようだった。
< 459 / 807 >

この作品をシェア

pagetop