彼は、理想の tall man~first season~
これからあの場所で、彼女もピアノを弾くとトモコちゃんは言っていたが――。
それは、俺には異次元で。
とても彼女が普通の女の子だという風には思えなかった。
洗練された世界の、一般家庭とは異空間な。
住んでいた世界が余程違ったのか。
ただ、親の職業を考えると、そういう世界観だったのかも知れない。
「マスターとは違った魅力のピアノマンだな」
美青年のピアノに聴き入っていたトモコちゃんは、カクテルグラスに口を付けた後、誰に放つわけでもなく、急にボソッとそう呟いた。
「中條さん、ここのマスターと話しましたか?」
「ううん、話してないけど」
「そうですか。じゃあ、見た目と弾いた時のギャップの激しさに驚きますよ」
「マスターって、顎に髭のある人?」
「そうです、そうです。美紗と並ぶと、美女と悪男って感じなんですけど。2人の演奏があたしは超好きなんですよねぇ。弾きながらケンカしても、曲中で仲直りみたいなコンビなんで」
弾きながらケンカしても、曲中で仲直りみたいなコンビ?
一体どんなコンビだ――と、そう思っていると、ステージの彼は演奏を終えたようだった。