彼は、理想の tall man~first season~

そして、徐々にステージの照明がダウンし、店内は暗くなり始めた。

気付けばバーテンはこのテーブルにはおらず、既にカウンターの奥に既に戻っていた。


「いよいよですよ」

トモコちゃんはそう言いながらソワソワして。

柏木君から「落ち着けよ」と、そう言われ「だって楽しみなんだもん」と――。

実に素直な子だと思いながら、俺は煙草を吸いに席を立った。


柏木君達のテーブルよりも更に奥の、店の奥隅にある灰皿。

それは、さっき席を移動していた時、目に付いた灰皿だった。

柏木君達のテーブルで吸っても彼も喫煙者だったから、何の問題もないだろうが。


彼女が弾く姿を、なんとなくひとりで見たい――そんな気分だった。


吸う事が習慣になりつつある煙草をスーツの中から取り出し着火。

立ち見をするには、ここはベストな場所だった。

立っていても誰の邪魔にもならず、俺が見る人の視界を遮ることもない場所。

まあ、それは柏木君達のテーブルでもそうだったが――。


ステージライトの色が鮮やかな紫となり、ステージのピアノは色を変えた。

何故だか客が騒々しくなり、俺は変な緊張感に襲われた。
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