彼は、理想の tall man~first season~

「美紗の器用さは真似出来るもんじゃねぇのに、本人がそれ解ってねぇから」

それは、一番近くで見て来た兄だから言えることなんだろうと思い、俺は軽く頷き返した。


こういう場で、あれだけ堂々と演奏が出来るなら、松本の依頼なんて、彼女にとったら朝飯前なんだろうな。

ただ、こういう姿を仲間内の誰にも知られず、俺で留めておきたいなんて思うのは――俺の勝手な独占欲ってやつか?

俺は意外に心が狭くて、意外に独占欲が強い人間だったのか、と。

こういうことに直面して、初めて知った気がした。


ステージのライトが黄色とも金色とも言える色に変わり、ステージは彼女の姿だけになった。


「あれ? 今日はもうラスト曲かよ、早ぇな」

尚輝が放った言葉に引っかかりその意味を問うと、どうやらこの店にはステージライトの色に合図があり。

尚輝曰わく――この輝かしい色は、ラストの曲ということらしい。

店側からの曲の提供はこれで終わりで――リクエストには応じるが、良くも悪くも、これが終わると常連タイム突入だと教えてくれた。
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