彼は、理想の tall man~first season~

そして――彼女がゆっくりと間を取り、弾き始めた曲は、冬季五輪で話題になった曲。

トモコちゃんが口元で手を合わせ、軽く拍手をしたような――そんな姿が印象的だった。


尚輝も俺も、彼女が弾くその姿を静かに見守り。

それは――単に、彼女の音の世界に引き込まれたと言った方が正しいのかも知れないが。


鍵盤の上で踊っているかのように動く指。

黒いドレスを身に纏い、そこから露わになっている細い腕。

彼女の動きと、その音の世界と楽曲の素晴らしさに、これでもかというくらい、俺は魅了されていた――。


曲が静かに終わりを迎え、店のホールは拍手に包まれながら、ライトダウン。

そして、徐々に光が戻り、静かにBGMがかけられた。


ホールとステージライトは同色となり。

彼女の姿はステージにもホール内にもなく。

どうやって彼女をつかまえようかと悩んでいると、トモコちゃんがやって来た。

そして、少し経てば美紗もここに来るだろうからと、再び柏木君達の席に尚輝と共に戻り、再び酒を飲み始めた。
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