彼は、理想の tall man~first season~
「先生、また、嬰に来る?」
「うん。取りあえず、明日の昼間、ピアノの練習をさせてもらうから」
軽く息を切らせている奏君を、飲み屋街のネオンがチカチカと照らす。
奏君には似つかわしくない場所だとは思うけど。
奏君も、もうそういう年齢になったと思えば――時が経つのも早いもんだと呑気にも思った。
「夜、飲みには来ない?」
「うーん、気が向けば、ね?」
「そっか――俺、先生と色々話したいことがあるんだけど」
「あ、うん。そうだよね。今日はそういうタイミング、なかったもんね」
私も話したかったから、また近いうちに来ようかなという感情の芽生えは、恐らくごく普通の感情の流れだと思う。
「先生、連絡先教えてよ」
「あ、うん、いいよ」
奏君は昔持っていなかった携帯を今は所持しているらしく、私は携帯をバッグから取り出し、奏君と赤外線で番号とアドレスと交換した。
「今日は、もうバイト終わりなの?」
「うん。でもマスターが飲むから付き合えって」
「そっかぁ。でも、あんまり飲んだらダメだよ?」
「え?」