彼は、理想の tall man~first season~
chapter.25
なかなか姿を見せなかったタクシーにも、やっと乗ることが出来た。
ひとりだったら、タクシーなんて、間違いなく乗らない。
何の迷いもなくタクシーで帰宅するという手段を選んでしまう敦君に感じるのは、経済力。
流石だなと、思う。
だけど、余りにも高かったタクシー代を払わないというのは、気が引けた。
「あの、私も半分払います」
「点追加ね」
「え?」
「これでお願いします」
「あっ!!」
『はい、お預かり致します』
敦君に、軽くかわされ。
彼はスマートに料金を支払ってくれた。
「今日は逆にお酒ご馳走になっちゃったから、気にしないで」
そんな風に言われたって、額が額なだけに気にしてしまう。
タクシーから降りて、私のマンションの入り口で、そんなやり取り。
ただ、このまま帰るのは、なんだか寂しく――。
タクシーの中で話は多少出来たけれど、離れがたかった。
尚輝は今日帰って来そうにもないし。
久し振りに会えた訳だし――。
けど、やっぱり出張明けの敦君を引き止めるのは気が引け。
私はバッグを弄って、鍵を取り出し、それじゃあ――という雰囲気を作った。