彼は、理想の tall man~first season~
なんでもないと、かぶりを振って私は歩き出し、
「気分でも悪い?」
まさかそんなことは有り得ないと、再びかぶりを振った。
いい男を見ているのは、気分が良くなるもので、悪いなんて有り得ない。
「あの、コーヒーとか、」
「――いれてくれるの?」
「はい。タクシー代には全く及びませんけど」
「更に点追加だ」
「――あっ!!」
しまった、と思ったけれど。
やっぱり、早々出来るもんじゃないなと思いながら、口を開いた。
「コーヒーは、ブラックで、いいです――」
「ん?」
「ブラックでいい?」
「苦しい所だけど、今のはセーフにしてあげる」
因みに、飲んだ後は、ブラックがいいかな――。
そんな会話をしながら、私は部屋の施錠を解除して、敦君と部屋に入った。
今のは、誤魔化せたのか、私の逃げに付き合ってくれたのかは定かではないけれど。
私は手を洗って、急いでケトルでお湯を沸かした。
ブラックコーヒーと、砂糖とミルクを軽く入れたコーヒーを持って、リビングのローテーブルにコトンと置くと。
「ありがとう」
敦君はそう言って、それを静かに飲み始めた。