彼は、理想の tall man~first season~

見つめられて、鼓動がいつもより三倍速――。


「あの、彼女とか、いらっしゃらないんですか?」

うっかり、そう聞いていたのは私だった。


踏み込まないようにしなければと思っていたのに、私ってば、なに聞いてんだか。


だけど、そんな私の事情なんて知りもしない中條氏は、「いないんだよねぇ」と、簡潔に答えをくれた。


「美紗、敦さんのこと狙うなら今がチャンスだぞ」

「――はぁっ!? ちょっと、尚輝、何言ってんの!?」


尚輝の言葉に思わず叫んでた。

焦りが驚きよりも、最前列に速攻やって来て。

一気に酔いが廻ったんじゃないかって思えるくらい――酔っ払いのおじさんかってくらい――声が大きくなっていて。


一気にバクバクしていた心臓。

それを落ち着かせる術を知らない私は、必然的に、尚輝を睨み付けていた。


ただ、「冗談だけど」なんて、尚輝は笑っていた。



冗談だけど。

冗談だけど?

冗談だけ――

じょ、冗談!?


それは――本気に捉えた私が、バカというだけの話で。

完全に墓穴を掘ったということを理解した。
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