彼は、理想の tall man~first season~
「それより、こんなにお願いしちゃっていいの?」
私と、隣で黙って座る敦君を交互に見て、様子を窺う新郎の長山さん。
多少ブランクはあるけれど、出来ないことではない。
「俺、昨日初めて弾く姿見たけど、」
そこまで言って、敦君は言葉を止めた。
そして、気になって敦君へ視線を動かせば、視線が絡み合い、妙な緊張感に支配された。
けれど――
「素人目にも、圧巻――惚れ直した」
まさかそんなことを言って貰えるなんて――しかも、敦君が人前にも拘わらず、そういうことを言ってくれるなんて。
私は信じられなかったその現実に、息をするのも忘れる感覚に陥った。
「ハッ? 中條、お前完全ベタ惚れ?」
驚いたのは私だけではないみたいで、ずっと大人しく座っているだけだった藤本さんが、敦君の言葉に目を丸くしている。
敦君は、藤本さんの言葉に、頷く訳ではなかったけれど、ふっと軽く笑みを返した。
「いやいやいやいや、いいんじゃない? なんか、2人お似合いだし」
長山さんの変な援護が、自然と私の頬を熱くさせる。
こういう冷やかしみたいなものは、初めてではないけど――。