彼は、理想の tall man~first season~
「あの――嘘とかではないですからね? 嘘でこんなこと言えないし」
最後の方は口籠ってしまったけれど、多分敦君には聞こえていたと思う。
嘘でも嬉しいなんて、嘘ではないから単にそれを否定しておきたかっただけなのに。
「美紗ちゃんは、随分素直なんだねぇ」
松本さんから声を掛けられ、そちらを向くと。
「嘘じゃないってことは、本心か。良かったなぁ、中條」
「いいよーどんどんのろけちゃって」
私は否定をしていたつもりが、とんでもなく墓穴を掘っている事に気づき。
もう口は開くまいと誓った。
お前ら遊ぶなよ――と、敦君が軽く言ってくれたけど。
「いや、今のは完全に中條が誘導したろ」
「間違いねぇな」
「んとに、策士だよなー」
その会話に――え?と思いながら敦君を見ると、フッと笑い。
――どうやら私は、敦君にも遊ばれていたらしことを悟ったのだった。
でもそれが恥ずかしかっただけで、嫌とかいう感覚などは全くなく。
普段絶対に言えないようなことを口走っていたのは、普段飲むことのあまりない日本酒のせいだと、お酒のせいにしていたりで。
なんなら寧ろ言えて良かったのかも――みたいな、そんな大胆な思考にまで発展していた。