彼は、理想の tall man~first season~
chapter.29
「じゃあ、また今度な」
「今日は、サンキュー」
「美紗ちゃん、金曜日ね」
「はい、お疲れさまでした」
「じゃーな、中條」
「おーまたな」
焼鳥屋さんの最寄り駅で解散になり、敦君に手を引かれながら歩き始めた私は、視界がどことなくふわふわしていて、酔っていることを自覚していた。
今日は、長山さん達に会うまで結構緊張していたこともあり、敦君とふたりになった瞬間、一気に気が緩んだ、そんな感じだった。
「大丈夫?」
無言で頷いた私を見て、相変わらず爽やかに笑った敦君。
その雰囲気にどこか安心する。
私の分まで飲み代を支払ってくれたので、どうもタクシーで帰ることは憚られ、電車を乗り継ぎ。
そして、酔い覚ましと思って、夜道を歩いてマンションに向かっていた。
繋いだ手からは、妙な安心感とドキドキが得られ――ゆっくり歩いてくれるから、ふわんふわんとした感覚が、心地よくすらあった。
「んー、煙草が吸いたい」
「ああ、そうだね。あそこの公園でちょっと休もうか」
丁度道の通りにあった公園。
入り口でお茶と缶コーヒーを買って、ベンチに移動した。