彼は、理想の tall man~first season~
chapter.29

「じゃあ、また今度な」

「今日は、サンキュー」

「美紗ちゃん、金曜日ね」

「はい、お疲れさまでした」

「じゃーな、中條」

「おーまたな」


焼鳥屋さんの最寄り駅で解散になり、敦君に手を引かれながら歩き始めた私は、視界がどことなくふわふわしていて、酔っていることを自覚していた。

今日は、長山さん達に会うまで結構緊張していたこともあり、敦君とふたりになった瞬間、一気に気が緩んだ、そんな感じだった。


「大丈夫?」

無言で頷いた私を見て、相変わらず爽やかに笑った敦君。

その雰囲気にどこか安心する。


私の分まで飲み代を支払ってくれたので、どうもタクシーで帰ることは憚られ、電車を乗り継ぎ。

そして、酔い覚ましと思って、夜道を歩いてマンションに向かっていた。

繋いだ手からは、妙な安心感とドキドキが得られ――ゆっくり歩いてくれるから、ふわんふわんとした感覚が、心地よくすらあった。


「んー、煙草が吸いたい」

「ああ、そうだね。あそこの公園でちょっと休もうか」


丁度道の通りにあった公園。

入り口でお茶と缶コーヒーを買って、ベンチに移動した。
< 617 / 807 >

この作品をシェア

pagetop