彼は、理想の tall man~first season~

「タバコを止めていた時って、吸いたいとか、思わなかったですか?」

「ん? まあ、たまに手持無沙汰で思う事はあったかな」

「そうなんですか」

「なに、やめるの?」

「いえ、あの――直ぐに、ではないですけど、いつかは止めないとかなとは思ってます」

「身体の為にも周りへの影響を考えても、百害あって一利なしだもんね」

「――はい」


きっと、キッカケなんて些細なことなんだ。

1ヶ月前にこんな風に止める気なんてなかった私が、今こんな風に考えるなんて。

指先でチリチリと赤く光る煙草を見つめた。


「夏美はヘビースモーカーだったけど、仕事辞めてから止めたって言ってたかな」

「――え?」


夏美って――確か、松本さんの奥さんだよね。

マネージャーをやっていたらしいから、呼び捨てなんて驚く事でもないんだろうけど。

聞いた名前に、変にドキリと胸が音を立てた。


「その――夏美さんは、キッパリ止められたんですか?」

「んー松本の給料で、自分の煙草買って吸うってことに抵抗があったみたい」

「そうなんですか・・・・・・旦那さんのお給料で自分の煙草を」
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