彼は、理想の tall man~first season~
「あの、本当にそういうの、私は無理なので――」
微塵も相手にしたくはないんだけど。
両サイドには酔っ払いの男。
左腕は掴まれていて、その左側に立つ男は白線の外側にいる。
駅員がいないか、眼球を動かして、探してみたけれど、視界に映ることはなかった。
階段に向かい歩く人はまばらにいるけど、こちらの状況に気付いてくれる人は無し。
「すみません――本当に、放して下さい」
酔っ払いの馬鹿力って、半端なくて、腕が痛いと思いながら、男性の肩を押し返すと、よろけてしまった。
これでホームに転落なんて事態に陥ったら、逆にこちらが困ってしまう。
もうこれは改札までは我慢しようかなと思っていると――バッグの中で、携帯が震え始め。
だけど、取るに取れないこの状況。
ただ、立ち止まったら駄目だと思い、軽く速度を上げて歩みは止めなかった。
閑散とし始めたホーム。
それに危機感は抱いていて、蹴散らしてダッシュでもしようかと、私はタイミングを見計らっていた。
両脇の男2人は、駅前にある居酒屋がどうのとか言って、一向に引かない。
未だに左腕は掴まれたままで、バッグの中の携帯は大人しくなってしまった。