彼は、理想の tall man~first season~

助けを求めたいけれど、叫ぶ勇気なんてなくて。

目の前に立つ男からの危うい視線に――心音が耳の奥でドクドクと音を立てる。


本当に、どうしよう。

冷静に考えようにも、もう限界だった。


「私、帰りたいんで――」

「いいじゃん、ちょっと付き合ってくれてもさぁ」


酔っ払いって、本当に嫌だ。

気が大きくなっている分、全く引きを見せない。

寧ろ追い込まれる。


でも、切り抜けるチャンスは今しかないと思い。

一か八かの賭けに出て、それじゃ移動しましょうよ――と、持ちかけた。


私の言葉にニヤリと笑った目の前の男は、私の背中に手を回して歩き出し。

怖さが増しつつも歩き出した私は、お願いだから気付いて――と。

そう心の中で祈り、階段の方へ視線を動かした。


さっきホームを歩いていた意中の人物は、携帯を操作しながらゆっくりと歩いて来る。

徐々にその距離は縮まり、私はタイミングを見計らっていた。


私が飲みに行くと思って安心したのか――左腕を掴む男の手は徐々に緩まりつつあり。

背中を軽く押して歩く右側の男は、鼻歌混じりに意気揚々な雰囲気。

意中の人物まで、あと十数メートル。
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