彼は、理想の tall man~first season~

「何でそんなことしてるの? なにかの罰ゲームみたいだね」


今は密かな訓練タイム。

急に思い立って実行していただけだけど。


断煙するにも、いきなりは難しいだろうから――時に実験も必要で。

家に帰ったらまず吸うだろうけど、この数時間は耐えたいところなんだ。


「いつから吸ってないの?」

「んー、3時休憩から吸ってないです」

「約7時間か」


腕時計をチラ見した敦君。


「そろそろ10時になるけど、帰っとく?」

「私は大丈夫です」

「そう? それじゃ、もう少し飲んでから帰ろうか」


帰宅を取りあえず回避。

必然的に禁煙状態も延びるんだけど。

一緒にいたいという気持ちが、喫煙の欲求より勝った。


「このままワインでいいの? 他のにする?」

「ワインがいいです」


ボトルで注文していたから、私の空いたグラスに敦君はワインを注いでくれた。

楽しい時間て意地悪なくらいあっという間。

ワイン1本を空にした所で、お店を後にした。


「マンションまで歩いてもいいですか?」

「うん、行こうか」


ただ、2人での楽しい時間が、そうでない時間に変わるのは、一瞬だということを、この時の私は想像もしていなかった。
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