彼は、理想の tall man~first season~
聞かれて、ただ黙って頷くよりも、相手の顔を見てから頷いた方が、聞いてますよという事にもなるし。
反応が薄いと思われることも、前者に比べたら低減出来るでしょ――と、智子の教え。
勿論、こんな回りくどいことをするより、声に出して「うん」で返せばいいのだけれど。
出来そうにないから苦し紛れの秘策なる得策なのだ。
因みに、頷いて、心の中で『うん』と鍛錬している私は、会ってから、未だ「こんにちは」しか発していない。
「実家はどうだった?」
ふいに聞かれたその問い。
敦君は私に視線を余越し、私は敦君に視線を向けた。
こんな時は――
「両親も元気そうで、」
「それはなによりだよね」
途中まで笑顔で言って、あとは敦君の反応を待って――再び笑って頷くというシステム。
最後まで口に出して言うとなると、恐らく会話的支障が出る。
けど、こういう会話であれば、なんとなくいい雰囲気で終われる。
今の所――智子の作戦が良い感じで、ぎこちない会話は、徹底してしないように意識が向いていて良好だ。
今日直ぐにどうにか慣れるものではなくても、善戦しておきたい。
私にしては、実に前向きな行動だった。