君に咲く花
「その夕さんっていう人は、今……」

どうしてるのか、何となく予想がついた。

返ってきた答えも、予想してた通りだった。

「亡くなられました」

やっぱりって思った。

じゃなきゃ過去形でなんて話すはずがないんだから。

なんて言葉を返せばいいのかわからなくて悩んでると、朝乃さんのほうが先に話し始めた。

「夕様には想いを寄せる方がいらっしゃったのですが、頼政様はそれをお許しにはならなかったのです。頼政様は夕様の望まない婚儀を推し進め、叶わない想いを抱えた夕様は自ら死を……」

朝乃さんの目から、いつの間にか涙が流れていた。

この時代には、よくあることなのかもしれない。でもこれがもし自分だったら、やっぱりこんなの悲しすぎる。

何とかできなかったんだろうか。

死ぬなんて、そんなこと絶対しちゃだめだなんて思うのは、私がこの時代の人じゃないからかもしれないけど。

でも。

「ごめんなさい。私ったら、もう二年も経つというのに」

朝乃さんは、慌てて着物の袖で涙を拭いた。

こんな悲しそうにしてるのに、こんなこと聞いていいのかなってちょっと思ったけれど。

でもどうしても気になって、私は朝乃さんに訊ねた。

「あの、姫様が想いを寄せてた人っていうのは、もしかして」

「はい。ここにもよくいらしている、神谷速水(かみやはやみ)様です」

やっぱり、と思うと同時に、きっと両思いだったんだろうなと思った。

だってあの人は、私に「姫様なんかじゃない」って言った。藤森さんも、朝乃さんだって私をお姫様と間違えてたみたいだったのに。

どれだけそのお姫様と私が似てるのかはわかんないけど、私がお姫様じゃないってすぐにわかったのはきっと、そのお姫様のことが好きだったからじゃないのかなと思った。

だって好きな人のことを、見間違えるはずなんてないから。

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