君に咲く花
話のあと、朝乃さんが朝ごはんを持ってきてくれたけど、全然食べる気になれなかった。

それでもせっかく持ってきてくれたんだからと思って、全部は無理だったけど、それでもなるべく残さないように一生懸命詰め込んだ。

そしてまた、一人になってしまった。

部屋にいると、いろんなことが頭の中をぐるぐる回って気が滅入ってくる。

気分転換に、私は庭に出てみることにした。

私の靴が縁側の下に置いてあったのでそれを履いて、庭におりた。

ちょっと遠いところに、大きな木が一本生えていた。

これが、成政さんの言っていた桜の木なんだろうか。

もしそうなら、私はあそこの下に倒れてたってことに……。

「わっ」

後ろから何かが足元にどんっとぶつかってきて、私はびっくりして振り返った。

誰もいない、と思ったら、足元で犬が尻尾を振っている。

笑ってるように口を開いて見上げてくるのが可愛くて、こっちまで笑顔になってしまう。

私はその場にしゃがんだ。

「ここのおうちの子なのかな」

そっと、犬の背を撫でた。人に慣れてるみたいで、逃げようともしないし嫌がりもしない。嬉しそうに尻尾を振って、大人しくお座りしている。

「お名前はあるの?」

本来なら、返事が返ってくるはずはないんだけれど。

「重松だ」

しゃがんだままで振り返ると、そこには速水さんが、相変わらずの侍みたいな格好で立っていた。
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