君に咲く花
昨日短刀を突きつけられたばかりの私は、思わず警戒して身体を引いた。

「いつまでここにいるつもりだ、この偽の姫が」

見下すような顔で言われて、さすがの私もかちんときた。

だって私は別に、何も悪いことしたわけじゃないのに。

「ちょっと! あなたたちが勝手に私のことお姫様と間違えたんじゃない」

「俺は間違えてない。お前なんかと姫様を間違えるわけないだろう」

こいつっ……。

すたすたと去っていくこいつに一言文句を言ってやりたくなったけど、これ以上言い合いしたくなかったから、何とか呼び止めずに我慢した。

こんなに性格の悪い奴を、お姫様は本当に好きだったんだろうか。

「すまないね、朱音殿」

縁側のほうから聞こえてきた声は、成政さんだった。

「あれも辛い立場でな。どうか気にしないでやってくれ」

言われなくたって、わかってるつもりだ。

あそこまで言わなくてもとは思ったけど、もしあの人もお姫様のことが好きだったなら、私がお姫様に似ていることを良く思うはずがない。

それどころか、きっと私の顔なんて見たくもないだろう。

亡くなったお姫様のことを、私を見るたびに思い出しちゃうだろうから。

「あの、成政さん。この子はこのお屋敷の子なんですか」

何だか心が苦しくなって、私は話題をそらそうと別のことを持ちかけた。

「おお、重松か。朱音殿には吼えなかったのだな。初めて会う者にはいつもうるさいほどに吠え立てるのだが」

成政さんは縁側から庭に下りてきて、重松君のところまでくると頭を撫でた。

「この子はここの犬というわけではないのだが、よく出入りしておってな。夕などには、よく懐いておったのだよ」

そのあと、夕というのはなと成政さんが説明してくれたけれど、私はさっき朝乃さんに聞いていたから知っていた。

せっかく説明してくれてる成政さんの話をよそに、さっき言われた言葉をふと思い出してしまった私は、胸がちくっと痛むのを感じた。

――いつまでここにいるつもりだ、この偽の姫が。

この屋敷に長く居座ることはできないと、そう思った。





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