君に咲く花
思い始めたら、どうしてもじっとしていられなくって、その日の夜、私は部屋を抜け出した。

風が、ちょっと冷たい。

なるべく音を立てないように静かに歩いて、抜け出せそうなところを探した。

壁に穴が開いてるのを見つけたけれど、ちょっと私が通るには小さすぎる。

門のほうにも回ってみたけど、そこにはちょっと恐そうな門番の男の人が二人立っていて近づけない。

しょうがない。この塀を乗り越えよう。

決心した私は、きょろきょろと辺りを見渡した。

よし、誰もいない。

私はぐっと着物の裾を巻き上げた。

ちょっとみっともないけど、仕方ない。引っ掛けちゃうよりはましだ。

亀裂の入ってるところに何とか足をかけて、塀の上に手をかけてよじ登った。

だけど、問題は下りるほうだった。

この塀、登ってみると思った以上に高い。

しまったなあと思っても、登っちゃった以上はもう後戻りできない。

足をかけられるところを探ったけどなかなか見つからなくて、そうしてるうちに塀から手が離れてしまった。

「きゃああっ」

地面に落ちて背中と腰を強く打ち、一瞬息が詰まった。

「いったあ……」

呟いてから、はっとした。

やばい。誰かに気付かれたかな。

だけど、誰かがやってくるような足音は聞こえてこない。

ほっとして立ち上がった私の目に映ったのは、明かりがなくて真っ暗な森。

ぞっとすると同時に、ふと思った。

この屋敷から抜け出して、一体私はどうするつもりなんだろうって。



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