君に咲く花
咲里家の人たちと話してるうちに、こんな風に思うようになった。もしかして私がお姫様と似てるから、だから優しくしてくれてるんじゃないかって。

そう思い始めたら、妙に寂しく思えてきて、どうしようもなかったんだ。

私はぎゅっと、重松に抱きついた。

その間じっとしててくれた重松が、突然うーっと唸りだす。

「重松? どうしたの?」

もしかして苦しかったのかな、と思ったけど、どうやら違うみたいだ。

重松はじっと前を見て唸り声を上げている。

すると今度は重松の見ているほうからも、唸り声が聞こえてきた。

目を光らせて、こっちに歩み寄ってきたのは。

「や、野犬?」

大きさは重松とあんまり変わらないけど、何だかすごく獰猛そうだった。

口からは、鋭い牙が見えている。

今にも襲い掛かってきそうな野犬に、重松が大きく吼えて向かっていこうとした。

「だめ!」

負けちゃう!

そう思った私は、慌てて重松に飛びついて抱きとめた。

だってこのまま向かってったら、重松絶対怪我しちゃう。

追い払おうと、ますます大きく唸る重松を必死で抑えて、私も野犬をにらみつけた。

だけど、そんなのが野犬に効くわけがない。

野犬の目が、きらっと光った。

そんな気がした瞬間、野犬が牙をむいて飛び掛ってきた。

「わっ……!」

私はとっさに重松を抱え込んで、ぎゅっと目をつぶった。

だけど次の瞬間、ばちんっと音がして、ぎゃんっという声が聞こえてくる。

おそるおそる目を開けると、野犬がもと来たほうへ逃げ帰っていくとこだった。



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