君に咲く花
私が昨日の夜に屋敷を抜け出したことは、速水さん以外には、成政さんと朝乃さんしか知らないみたいだった。

速水さんと一緒に部屋に戻ってきてからは、よく眠れた。

そして疲れがたまっていたのか、目が覚めたらもうお昼を過ぎていた。

「昨日は危険な目に遭ったようで、すまなかったね」

「そんな、私が勝手に抜け出したから」

それなのにそんなに申し訳なさそうに謝られてしまって、私は慌てて首を振った。

それでも成政さんは、どうやらこちらに責任があるようだからと、またもや頭を下げられてしまった。

それから、成政さんは私にこんな提案をした。

「ここから少し離れたところに桔梗(ききょう)村というところがあってな。そこには家や家族を失くした者たちが暮らしている。もちろんここにいても構わないのだが、あまり気が休まらないのではと思ったのでな」

決して追い出そうとかそういうことではないのだと、成政さんは念を押すように言った。

ここにいてもお姫様と間違えられるばっかりで、また辛くなるかもしれない。

それにずっとここにいたって、元の時代に戻れる保証なんてどこにもないんだ。

外に出れば、何かわかることがあるかもしれない。

「じゃあ、お願いします」

ちょっと不安に思いながらも、私はその村へ行ってみることに決めた。
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