君に咲く花
次の日の朝、桔梗村へ出発した。

朝乃さんと成政さんが、門まで見送りに来てくれた。

「またいつでも、ここに顔を出しにきてくれ」

「お待ちしております、朱音様」

二人に笑顔でそう言われて、私も「ありがとうございます」と言って笑顔で頭を下げた。

村までの案内役は、速水さんだった。

門を出たとこで小道をそれて、私が迷い込んだあの森へ入っていった。

最初はよかったけれど、だんだんと草が深くなってきて、草や枝をかきわけて通らないといけなかった。

「あの、速水さん」

「速水でいい」

速水さん、いや速水に、背を向けたままきっぱりと言われた。

ちょっと冷たい言い方のような気もしたけど、こんなことでめげてなんかいられない。

「すごいとこを通るんだね」

「あの屋敷からは、ここを通るのが近道なんだ」

でもこんなに歩きにくいところを通るくらいなら、ちょっとくらい遠回りしても小道を通って行ったほうが、疲れないし早いような気がする。

案内してもらってるのに、そんなことは言えないけど。

「ありがとう、案内してくれて」

そう言うと、速水がはじめて振り返った。

「いや。俺も桔梗村に住んでるからな」

桔梗村に住んでる、っていうことは。

成政さんは言っていた。桔梗村には、家や家族を失くした者が住んでるって。

速水も、そうなんだろうか。

ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていて、ふと気付くと、速水がこっちを向いて立ち止まっていた。

「どうしたの?」

「いや、別に」

そう言うと、速水はまた前を向いて歩き出した。

あ、もしかして。

私が追いつけてないから、待っててくれたんだろうか。

優しいとこもあるんだな、なんて思いながら、私は彼を見失わないように頑張って早く歩いた。

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