君に咲く花
村で一番大きなお屋敷に案内された私は、速水とともに村長さんの部屋をたずねた。

私と速水の前に座っている村長さんは少し小柄な人で、何だかちょっと恐い顔つきをしている。歳はたぶん、四十歳前半くらいだ。

「そなたが、朱音殿かね」

そう聞いてきた村長さんの顔は、何だか驚いてるみたいだった。

「あ、はい。そうですけど」

私が緊張気味に答えると、村長さんは少し表情を柔らかくして言った。

「私はこの村の長で、嘉納義虎(かのうよしとら)いう者だ。話は成政様からお聞きしている。そなたにもこの村で暮らす家を貸し与えよう。何が不自由なことがあれば遠慮なく言うといい」

「あ、はい。ありがとうございます」

私が頭を下げると、村長さんは何だかますます驚いたような顔をしていた。

そんなに驚くようなこと、しただろうか。

もしかして村長さんも、私がお姫様に似てるから驚いてるとかなのかな。村長さんがお姫様を見たことあるのかどうかはわかんないけど。

「速水、朱音殿の案内を頼む。家は……そうだな、この屋敷からあまり離れてないところがいいだろう。それから」

村長さんが、ちらっと掛け軸のほうを見た気がした。

「わかりました」

速水がすっと立ち上がって「行くぞ」と声をかけてきたので、私も慌てて立ち上がって、村長さんにぺこっと頭を下げた。

そしてさっさと出て行ってしまう速水のあとについて、私も部屋を出て行った。
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