君に咲く花
「は……」

つい、間抜けな声を出してしまった。

何言ってるの? この人。

久しぶりって何? 久しぶりどころか、一度だって会ったことないじゃない。

「ちょ、ちょっと、人違いなんじゃ」

すっと、ふすまの開く音がした。

入ってきたのは、若い男の人。私よりは少し年上みたいだったけど、やっぱり侍みたいな格好をしている。

「いらしていたのですか、速水(はやみ)殿」

男の人が声をかけても答えようとせず、彼はずかずかと私のほうへ歩み寄って来た。

片膝をつくと、一つに結んでいる長い黒髪がさらっと揺れた。こんな長い髪の男の人を見るのは初めてだ。

なんてのん気なことを考えていたそのとき。

すっと差し出された手に、私は思わず固まった。

きらっと光るそれは、短刀だった。

「何をっ……」

「藤森(ふじもり)殿、こいつは姫様なんかじゃない」

そうしてきっと視線を向けられて、私は声すら出なかった。

「貴様、何者だ」

誰だ、なんてこっちが言ってやりたい。

藤森と呼ばれた男の人も、着物を着た女の人も、ここがどこなのか、一体何が起こっているのか、訳がわからなすぎて何も考えられない。

だいたい、どうして皆着物を着てるの? 何で侍みたいな格好してるの?

あまりに頭が混乱しすぎて、何だか涙が滲んでくる。

目の前の男の人は、ますます短刀を突きつけてくる。

「まさか、沢村(さわむら)のっ……」

「待ちなさい」
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