キ ミ ガ タ リ ナ イ
-慎-
ハルとの出逢いは、この大都会には相応しくない、木々に囲まれた古くてちっぽけな公園。
仕事帰りにたまたまここを通りかかったら。
長い黒髪をだらしなくぶらさげ、
ただ携帯をぎゅっと握りしめながら、下ばかり見ている。
白くて細い指先からは、強さが溢れ出していた。
………イイ女。
最初は、それだけ思って彼女に近づいたんだ。
「なぁ、何してんの?」
真夜中だから、きっと俺の姿は分からない。
大物俳優と、女優の間に産まれた役柄、きっと俺を知らない人はいないだろうから。
「寒くねぇの?んな格好して」
彼女は見向きしようともせず、瞳を揺らした。
「なんか言えよな」
立ち上がろうとした彼女の折れそうな細い腕を、掴んだ。
それと同時に、黒髪で隠れていた口元が目に入った。
………すげえ好み…。
キッと鋭い瞳を光らせ、口元は縫われたように動かない。
そんな姿に、興奮をおぼえたのは…
月が、明るく彼女を照らしていたから。