償いノ真夏─Lost Child─


家に着くと、庭先で母とフミ子が帰りを待っていた。

「──真郷、卒業おめでとう」

「坊っちゃん、本当におめでとうございます」

開口一番、二人はそう言った。真郷は複雑な思いで、ありがとうとだけ言った。

「東京に行ったら、お父さんの言うこと、ちゃんと聞くのよ……元気でね。たまには、お母さんにも会いに来てちょうだいね」

「うん。また会うときまで、母さんも元気で」


母には悪いが、真郷はもう会いたくなどなかった。きっと母は、もうじき新しく男を作るのだろう。

それが哀しいと感じるのは、やはり憎んでいても実の母親だからだ。

真郷は振り切るように、フミ子に体を向けた。


「フミ子さん、本当に色々とお世話になりました」

「いいえ坊っちゃん、私には勿体ない言葉です。どうか、お身体に気を付けて。また遊びにいらしてください」

「はい。フミ子さんもお元気で」

「ありがとうございます。優しい坊っちゃんのお世話ができて、私は幸せ者です」

涙ぐむフミ子を宥めるように、母が背をさすった。

「真郷、おばあちゃんが中で待ってるわ」

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