償いノ真夏─Lost Child─
深見屋敷に別れを告げた真郷は、最低限の荷物が詰まったバッグを持って、バス停へ向かった。
他の荷物、それから九郎の移動は、専門の業者に頼んである。
さすがにバスに犬を連れ込むわけにはいかない。
夜叉淵からは、一日に一本だけしか隣町へのバスが通らない。真郷はバス停へ着くと同時にやって来たその唯一のバスに乗り込んだ。
隣町までは、わざわざ父が車で迎えに来てくれている。父は夜叉淵の中では異端者だった。だから昔からあの村を嫌っていた。
父にとって、あの村は忌み地なのだ。
と、同時に父もまた、あの村に忌まれた存在だ。だから、あの村には入れない。
自分の他に客の居ない、がらんどうのバスに揺られ、窓枠に頬杖を付きながら真郷は静かに目を閉じた。