償いノ真夏─Lost Child─
そんなこともあって、今や小夜子以外の誰も、この願掛けの意味を知るものは居ない。
別に隠していたわけではないが、誰かに話して『そんな少年がいるはずがない』と言われるのが怖かった。
だから、ずっと自分の中だけに留めておいたのだが。
「ナツ、バカにしない?」
「しないよ、たぶん」
「たぶんってなによ、もう……」
そう言いながらも、小夜子は夏哉になら話しても良いと思った。
こんな態度でも、彼は小夜子の話をいつも真剣に聞いてくれていたし、馬鹿にしたこともない。
「あのね……」
小夜子はあの日の出来事を話した。その全てを、夏哉は頷きながら真剣に聞いていた。
話し終えると、先に口を開いたのは夏哉だった。
「──姉ちゃんさ、今でもそいつのこと好きなんだ?」
その口調は、けして茶化すようなものではなく、少しの憂いを含んでいた。
「姉ちゃんのこと放って居なくなるとか、正直ムカつく野郎だけど。……でもさ」
夏哉は小夜子から目を反らした。
「……会えるといいな、また」
そう言って微笑む夏哉は、普段とはまるで別人のように大人びて見えた。