償いノ真夏─Lost Child─


「深見っていったらアレでしょ?深見屋敷の──」


そんな会話があちらこちらから聞こえてくる。

しかし小夜子には、それより重要なことがあった。

深見屋敷の深見真郷──だとすれば、彼こそがまた会いたいと願い続けてきた『まさと』だ。

「深見くんの席は……朝霧の隣でいいか。朝霧、手を上げなさい」

「!」

突然の指名に驚いたが、なるべく平静を装って手を上げる。クラスメイトの視線が痛い。

そしてその視線の中に深見真郷のものが含まれていると思うと、よけい心臓が跳ねた。

つかつかと歩み寄ってきた真郷に、小夜子は不自然にならないよう控えめに声を掛けた。

「あ……深見くんの席、ここだよ」

「──どうも」

自分の隣を指差せば、真郷は無愛想にそう返して、小夜子の顔も見ずに席についた。

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