償いノ真夏─Lost Child─


「──な」


ナツ、と言いかけて、止まる。

夏哉の向こう側には、渦中の転校生、深見真郷の姿が見えた。

近寄ることもできず離れたところから見ていると、なにやら言い争っているようだ。

夏哉は元々、短気な部分がある。止めなければ、と思い、近寄ると会話の内容が聞こえた。

「やっぱ都会の奴は自信過剰。──ムカつく」

その言葉に、思わず小夜子は夏哉の腕を掴んだ。夏哉は驚いた顔で小夜子を振り返る。

「朝霧さん?」


真郷はきょとんとして小夜子を見ていた。

「弟が失礼なこと言ってごめんなさい」

「弟さん?」

「うん、六年生。悪い子じゃないんだけどね、ちょっと難しくて」

小夜子が頭を下げると、夏哉は気に入らないようで眉を寄せた。

「俺は姉ちゃんのためを思って……」

「でも、目上の人にそんな乱暴な言葉使っちゃダメよ。ほら、ナツも謝って」

「……」

夏哉は小さく舌打ちした後、渋々といった感じで真郷に頭を下げた。
< 199 / 298 >

この作品をシェア

pagetop